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Tuck AndressのI Wish

松浦弥太郎さんの日々の100 (集英社文庫) を読んでいます。その本は松浦弥太郎さんが持っている100の物や事柄についてのエッセイ集で、その中でインターネットもゲームもしないかわりに毎晩ジェームス・テイラーの「きみの友達」を弾いていると書いてありました。その1曲だけを弾き続け、長いスパンの演奏を通して上手くなれたらいいな、という事を他のエッセイでも語られてました。

毎晩同じ曲を演奏しているとだんだんその曲が上手くなっていくのは当たり前の話です。しかし一応音楽で飯を食っている僕ですが意外に毎日必ず弾く曲はありません。毎晩ギグをやっているわけでもないですし、レッスンも生徒さんによって違う曲を教えています。特にセッションギタリストなどをやっているときは常に初見の曲をやらされていましたので、なかなか同じ曲を引き続ける機会はありません。

しかしながら自分の人生の愛想曲を持つというのは大事な事です。その曲が体の中にしみ込み、その曲の中で使われているテクニックが自分の基礎、土台になっていきます。ちょうど大工さんなどの職人さんが毎日の繰り返しの仕事の中で技術を磨いて、筋肉のつき方や体の形そのものすらその動きに合わせて変わっていくように、愛想曲は自分の楽器の弾き方を少しずつ無駄のないもの、それに特化したシンプルなものに変えていきます。

クラシックではメソッドが確立されており練習曲で良いトレーニングになりますが、せっかくだったら自分の好きな曲を愛想曲にしたいです。そこで僕はTuck AndressさんのI Wishを毎晩なにかの儀式のように弾いています。1年近くかけて最後までコピーして、後はきちんと弾けるように練習しているのですが中々弾けるようになりません。とにかく難曲なんですね。

毎日少しずつ練習してようやく4/1ほど弾けるようになりました。まだまだ先は長いですが、それでも毎晩寝る前の時間を使ってギターを持って、写経のようにTuck Andressさんの運指をなぞって出来るだけ近い音(望むならば全く同じ音)で鳴らすように心がけて弾く時間は静かで誰にも邪魔されない心地よい時間です。毎回同じ姿勢でギターを持ち、毎回同じ作法で弾く愛想曲はまるで茶道か何かのようですね。

年齢が上がるにつれてようやく長いスパンで物事を考えられるようになってきました。いつの日かちゃんと弾けるようになると良いなあ。


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